教会レースの項目で述べました通り、 レースはキリスト教の教会や儀式に広く取り入れられるようになりました。キリスト教において最も重要な儀式の一つに、新生児の洗礼式、バプティズムがあります。洗礼は子供が宗教へ足を踏み入れる 最初の一歩で、そのため、それ相応に祝福されるべき、たいへん重要なステップとされていました。
レースは16世紀より儀式に登場するようになりました。
当時、出産や子育ては無知と迷信に覆われており、子供が生まれたら、できるだけ早く洗礼しなければならないと考えられていました。もし子供が洗礼を受ける前に亡くなってしまうようなことがあれば、悪霊がその子供を連れて行ってしまい、子供の魂は永遠に迷子になってしまうと考えられていたからです。そのため、子供たちはできるだけ早く、生まれた当日か翌日、翌々日までには洗礼されていました。つまり、新生児の母親は、我が子の洗礼式に出席することができなかったことになります。
16世紀、17世紀には、子供の教母(ゴッドマザー)が子供をベアリング・クロス(赤ちゃんを運ぶ布)に包んで教会に入るのが普通でした。バプティズムは洗礼のお祝いである一方、人々に地位を誇示し、印象づけることができる社交的な機会でしたから、両親がお金持ちであるほど、このベアリング・クロスは華美に飾り付けられました。
ベアリング・クロスは、大きなサイズのものが多く、長いもので5フィート(約152cm)もあり、シルク、サテン、ダマスクやベルベットといった贅沢な布地で作られていました。
布の端には、主にゴールドやシルバー・レース、シルクや刺繍の装飾が施されていました。布地の大きさや、固さ、重さのため、こういった布を一人で運ぶことはできず、時には女性が4人掛かりで新生児を教会に運ぶこともありました。
いったん教会の中に入ると、子供が洗礼盤の水にさっと、しかし、完全に浸かることができるように、ベアリング・クロスはおくるみ、肌着とともに外されました。おくるみは豪華な装飾の余地もなく、得意の母は愛する小さな我が子をさらに飾り立てるために、よだれ掛けや帽子といった、
その他の衣類に注目しました。写真のボンネット(あごの下で紐を結ぶ帽子)は、その一例です。17世紀の豪華な帽子です。
18世紀のあいだに、子育て一般、そして特にバプティズム(洗礼)を取り巻いていた伝統・迷信に変化が起こりました。赤ちゃんを布でくるむことがだんだん少なくなり、18世紀の終わり頃には、ほぼ完全にこの習慣はなくなりました。また、洗礼式では、子供を完全に水の中に浸けることは必要なくなりました。代わりに、聖水盤の聖水が牧師の手によって子供に振りかけられるようになりました。この変化が、洗礼用ドレスの導入のきっかけとなったのです。また、ベアリング・クロスは、より小さく、防寒のために子供を包むのにより実用的なマントにとって替わりました。
裕福な階級の人々は、このマントをも豊富な装飾で飾り立てることを好み、布地はシルクやベルベット、 飾り付けにはシルクや毛皮、組み紐を、そして 防寒のためにキルトに仕上げた、花やその他のモチーフを刺繍したものが流行しました。

子供が洗礼式の際に身につけた白い洗礼服は、洗礼の儀式を通して子供が生まれ変わる、罪から解放された新しい命を暗示していました。白は、神の前で純粋であることの象徴として選ばれた色です。流行になり始めた当初の洗礼ドレスは、高い位置にウェストがあり、適度に長く、レースや刺繍で豊かに装飾されていました。袖は大抵レースで作られ、大きな袖口のついたまっすぐな形でした。流行が変化すると、洗礼服も変わり、1840年代より先は、V型の衿と、より美しいレースの装飾が施せるような長いドレスが大流行しました。
上の写真では、19世紀に作られた洗礼服をご覧いただくことができます。1つ目の服は、美しいヴァランシエンヌ・ボビンレースで装飾されており、
ドレスの生地そのものは、とても軽くエレガントな上質のリネン、バチスト布でできています。もう一方の洗礼服も19世紀に起源しています。こちらはエアシャーホワイトワークの豊富な装飾が施されていますが、エアシャーは当時たいへん流行しており、そして今でもその人気を維持しています。牡丹は富、名誉、愛を象徴するもので、上のように花が開いているものは、その赤ちゃんを待ち受ける素晴らしい幸運を象徴しています。

レースのウェディング・ヴェールと同じく、洗礼服も母から娘へと家族の中で受け継がれていく傾向にありました。そのため、その家族に生まれるすべての赤ちゃんたちは、洗礼式の時に、最高の正装をすることができたのです。この写真のヴァランシエンヌの洗礼ドレスは、我が家族に4代にわたって受け継がれてきたものです。赤ちゃんが生まれると、洗礼式のためにこのドレスを着ておめかしをするのが、家族の習わしになりました。おばあちゃんにとっては、我が子が着たのと同じ洗礼服を身にまとった孫を見ることができる、感慨深い瞬間です。特別なドレスは、洗礼式を喜びと感激に満ちた記念すべきイベントにする手助けをしてくれます。
価値ある、文化的伝統はレースを通して伝えられることができるのです。
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一部の写真はSally Kevill-Daviesの“Yesterday’s Children”より