1700年もの間、カトリック教会は西ヨーロッパでの支配的な宗教であり続けたことから、教会には蓄積された権力と富の豊かな歴史があります。
カトリック教会は建築物、儀式で使われる贅沢なタペストリーや衣服で、その富を明示していました。
刺繍はいつも儀式で使われる織物の一部を成していましたので、16世紀以降レースが流行してきた際に、教会がこの繊細な布地に強い興味を示したのは、何ら驚く事ではありません。
レースは教会で使われるための織物に相応しい布地でした。レースはとても軽く繊細で、まるで魔法で作られたような品質とにじみ出る清らかさをあわせ持っています。それゆえ、レースは広く教会で使われる布地の装飾として使われるようになりました。初め、これらのレースの飾り付けは比較的控えめに留まっていましたが、時が経つにつれ、装飾はより贅沢になっていきました。教会が所有するコレクションの中には、非常に素晴らしいレースも何点か見られます。
カトリック教会の司祭の衣服は服とズボンというよりは、足首まである、ゆったりとした長服からなるローマの祭服に影響されています。カトリック教会の聖職者は、様々な儀式の際に着る、様々な衣装を持っています。勿論、特別な神聖なる儀式のために取ってある衣装は、日常使いの衣装とは対照的に華美に装飾されていました。レースは、聖者に敬意を払って造られた像や祭壇背後の壁飾りにも見られますが、最上級のレースはホーリーサクラメント(聖体祭儀)と直接関わってくる、儀式用の布地として保存されました。
教会は最新の流行を追いかけたがり、結果、存在するほぼ全てのタイプのレースで、見事な教会レースが作られました。金や銀の糸で作られたギピュールは、聖餐台を飾るのに広く使われました。アランソン、ポアン・ド・ローズやその他の繊細なレースの極上の品々は、ローマ法王や司教(ビショップ)が身につけました。壮大なカトリック大聖堂の装飾として使われたレースは、今なお、そのコレクションの中や世界各国の美術館などで見る事ができます。
教会は、様々な所からレースを手に入れていました。レース商人が注文したものもあれば、修道院で作られたもの、中には、献身のしるしとして、貴族男性によって献上されたもの、あるいは貴族女性が自ら作ったものなどもありました。その献身ぶりは、一つ一つのステッチに注がれた注意力からも伺い知る事が出来ます。教会レースは、神に敬意を表して作られたもので、決して美しすぎるという事はありませんでした。
多くの教会レースは元々、礼拝用にはデザインされていないという事を述べておかなければなりません。これらの品々は、ブルジョアジーや貴族からの寄贈品でした。
修道院で作られたもの、そして貴族女性によって作られたものは、たいていが、かなり見事な出来ばえのものでした。修道女,貴族女性たちは、日常生活の中で時間的制約がなく、可能な限りの注意力を一つ一つの詳細に注
ぐ事が出来ました。中でも、最も細かい作品のいくつかは、ステッチがあまりに細かすぎて、顕微鏡の下でしか鑑賞する事が出来ないものもあります。
この写真は、いくつかの宗教シンボルを含むポアン・ド・ローズの教会レースです。最も解りやすいシンボルは、全レースの中で一定の間隔で繰り返されるラテン十字架です。このラテン十字架は、もちろん、イエス・キリストの苦痛の象徴です。また、十字架は一般的にカトリック教会と結びつけて考えられます。十字架がキリスト教のシンボルとしてみられるようになったのは、紀元3世紀以降でしかないという事を述べておく必要はありますが。
このレースも、前回既にその象徴的意味について触れました、ぶどうを特徴としています。しかしながら、これは明確に宗教レースであり、よって、ぶどうは異なったものを象徴しています。カトリックのシンボリズムでは、ぶどうは聖体拝領のサクラメント、キリストの血と肉の聖変化と結びつけて考えられます。聖餐式のテーブルのうえには、しばしば、ぶどうが供えられています。このレースにぶどうが描かれているという事から、このレースは聖体拝領のサクラメント(聖餐式)で使用されていたのではないか、と連想されます。
写真をクリックすると、大きい画像がご覧頂けます。
教会レースの傑作品に興味のある方は、教会レースの素晴らしいコレクションを所蔵している、アントワープにあるCaroulus Borromeus Church を訪れてみて下さい。